♪旅のエッセイシリーズ

        北 国 の 生 足 
           
〜小樽編〜 連載を始めて早くも一年になりますが、元旦に頂いた年賀状に「読んでますよ」という添え書きが多く、大変感動致しました。いつ、「あんな駄文を載せるな」というお叱りを受けるかと、ハラハラしながらの一年でしたが、こんなに読んで頂いているなんて。皆様、本当にありがとうございます。

 これからも、皆様のご期待に応えるべく気合を入れたりすると、途端につまらなくなりそうなので、今までどおり肩の力を抜きまくった連載を続けていきたいと思っています。

 というわけで、今回もわがままに「簡単・情報リテラシー入門」はお休みして、旅のエッセイです。年末・年始は、毎年小樽に行っております。診断士になる前から、もう10年以上通っているので、定点観測の地となっています。バブルの前から見ているので、バブルを通してひとつの街がどう変わるのかが、よく見えました。昔、銀行だった建物が一時バブリーなホテルに変身し、あっという間になくなり、今はロシア美術館になっているなんて象徴的な出来事です。

 さて、今回も前の晩ぎりぎりまで年賀状を書いて出発です。

 行きの飛行機の中で、家人が「北海道には、さすがにぽっくり靴履いてる女の子はいないだろうなー」とのんびりしたことを言う。甘い!家人よ、あなたはあまりに女というものを知らなさすぎる。実は、私は、昔あのぽっくり靴を履いたことがあるのです。はい、歳がばれてしまいますが、’70年代の出来事ですね。
「女の子は売っていれば買う、買えば履くにきまってるじゃん!」 という間抜けな会話をしながら小樽到着です。はーーい、いましたね。うじゃうじゃとぽっくり靴履いた女の子が。ぽっくり靴で器用に雪道を歩いています。しかし、私も、あっと驚くことが。実は、その前に新聞で知ったのですが、あのぽっくり靴の下に女の子たちは、ストッキングを履かずにソックスを履いているのだそうです。つまり、見えている足の部分は、
生足!さすがに、北海道では、分厚いタイツを履いているに違いないと思っていたのですが、なーーんと、生足!!

 夜更けの吹雪の中を歩く彼女達の足は、生足!!!こんなことってあり!?まったくアンビリーバブルです!

 彼女達と同じ年頃に、めちゃくちゃなミニスカートをはいて、おばさま方からの「女の子は足腰冷やしちゃ駄目よ」というありがたいお言葉もシカトしていた私でした。そんな私もさすがに、こっそりとつぶやくのでした。「あんなカッコしてると歳とってからエライ目に遭うのに…」

 それにしても、北国の女の子にぽっくり靴と生足の流行を売ってしまう日本の小売店に、私は畏敬の念を抱いたのでした。最近の小売店は元気がないなんて、とーんでもない!

 さて、小樽に行って、女の子の足ばかり眺めていたわけではありませんよー。当然、昨年の 3月にできたマイカル小樽は、到着するやすぐに見学に行きました。札幌と小樽はJRで約40分の距離です。ほぼ、東京と横浜の距離にあたります。マイカル小樽は、小樽から2つ目の小樽築港にあります。ここは海に面した場所で裕次郎記念館がありましたが、それ以外はほとんど何もなかったところです。駅から歩いて5分程度のところにあり、周りに何もないので電車の窓から全貌が見えます。

 横に長く、5つの街に分かれています。両端にビブレとサティ、真中にヒルトンホテル、その間がセンタープラザと「海のルネッサンス」です。センタープラザは専門店街、「海のルネッサンス」は「小樽よしもと」や「石原プロワールド」の入ったアミューズメント施設です。

 全体は4階建てで、地下は全域が駐車場、それにビブレとサティの上だけ5〜7階が駐車場になっています。

 全体的に、アミューズメントにかなり力を入れているという印象です。数カ所に吹き抜けがあり、壁はガラス張り、その向こうには海が大きく広がっています。その海を背景にコンサートが開かれています。

 また、託児ルームやミルクバーがあり、冷蔵ロッカーや宅配サービスなど、サービス面での充実はかなりのものです。

 来店すると丸一日は十分に楽しめる仕掛けです。ちょうど、祝日の夕方に行ったのですが、小樽築港から電車に乗ると、札幌行きの電車は乗車率がほぼ 120%であるのに対し、小樽行きは一車両に数人という違いです。

 札幌からの集客を見込んでという狙いは、当たっているようです。しかし、地元ローカル紙によると、見こみ客数は下回っており、来店客も海を見ながらお弁当を食べて帰るだけで、売上にはつながらないという状況のようです。理由としては、札幌はそれなりの大都市であり、わざわざマイカル小樽で買い物をする必然性がないからとのことです。マイカル小樽建設には、マイカル小樽の集客で地元商店の活性化を狙い、小樽側も資金を投入しているのですが、どうもその狙いは外れているようです。地元の商店の方々と話をしていても、マイカル小樽に対しては、歓迎ムードより反発ムードのほうが大きいように感じました。

 しかし、あっと驚くことがありました。小樽に到着して商店街を歩いていると、商店の人達が台車に氷で出来たキャンドルを積んで、商店街のあちこちに置いているのです。大きなスイカほどの大きさで、赤や緑や黄色などの色づけがされていて、とてもきれいです。

     図−2すし屋通り

               図−3氷のキャンドル

 最近の小樽は、駅から歩いて 15分ほどの運河沿いが発展していて、駅近くの商店街は古い店が多く、行くたびになくなっている店があるという状況で、沈滞気味だったのです。

 マイカル小樽ができたためかどうかは分かりませんが、改装した店も、いくつかあり、全体的に活性化の雰囲気が漂っているのです。

 私が小樽に、これほど執着しているのは地方の小さな街にしては珍しく、商人気質が漂っているからです。明治時代ににしん漁で栄えた街は、一時衰退しかけていたとは言え、そこかしこに文化の香りが残っています。十数年ほど前に、昔の倉庫を改造して喫茶店や商店が開店し、すし屋が結託してすし屋通りを作り上げたのです。

 すし屋通りにあるNのHさんの握るすしは、甘くやさしくて最高の味です。「すしは技術だけじゃ駄目なのよね。職人の話が面白くて、店がきれいで、全部がよくて初めてすしが美味くなると思うんだよねぇ。」とHさんは、のんびりした北海道弁で話します。

 裏通りにあるラーメン屋のおばちゃんは、ラーメンが作りたくてお嫁にも行かなかったとか。 10年も通って、やっと顔を覚えてもらいました。「今年は、早いねぇ」。Hさんのおすしとおばちゃんのラーメンを食べに、また、小樽に行こうと思います。お客をこんな気持ちにさせるのが、ワントゥワン・マーケティングというものではないでしょうか。ふたりとも、顧客データベースなんて言葉は、知らないでしょうけれど。